『コンプレックス広告』とは? その意味と指摘される問題点
コンプレックス広告とは、身体的特徴をことさらに強調したり、不安にさせたりすることで人のコンプレックスを過剰に煽る広告のことです。
SNSを中心に広まるコンプレックス広告は、ユーザーに不快感や嫌悪感を与えるばかりか、自尊心の低下や、価値観の偏重など、様々な倫理的問題を引き起こす可能性があります。
人のコンプレックスを煽るため、効果も高いといわれてはいるものの、近年は規制の動きも出てきており、その問題点が顕在化しつつあります。
コンプライアンスの一環として、知っておきたい、コンプレックス広告の問題点を解説します。
訴求力があって過激なコンプレックス広告
“コンプレックス”は、そもそも心理学・精神医学の用語で、日本語では “劣等感”とも訳されます。
劣等感は、人よりも自分が劣っていると感じるネガティブな感情のことを指しますが、コンプレックスの種類の一つに過ぎません。
本来コンプレックスとは、衝動や欲求、観念や過去の記憶などが結びついた複合的なもので、日本語では『感情複合』と呼ばれます。
普段は抑圧されて意識化されていませんが、ふとしたきっかけで、強い固執やこだわりとなって表に出てくるものなのです。
こうした、人が意識していなかったコンプレックスをわざと刺激して、商品の訴求に結びつけるのが『コンプレックス広告』です。
ほとんどの人がコンプレックスを持っており、それを解消したいという欲求を抱えています。
痩せたい、きれいになりたい、モテたい、お金持ちになりたい……などの気持ちに訴えかけるコンプレックス広告は、現在SNSやネットメディア、動画サイトなどで多く流されています。
しかし、ユーザーへの訴求力を高めるため表現が過激になる傾向があり、その倫理的な問題が問われはじめています。
特に、肥満や薄毛、顔のシミなどの外見的な特徴を強調する広告に対しては、それをきっかけに、自分自身にネガティブな感情を抱くようになってしまうユーザーも少なくありません。
若者を中心に行われたアンケート調査では、9割のユーザーが外見のコンプレックスを強調した広告に不快感を覚えたという結果も出ています。
ネット広告の影響力大! 大手も出稿禁止の動きに
2021年度上半期には、インターネット広告の苦情件数は各媒体で最も多い2,726件(テレビは2,171件)となり、インターネット広告の影響力の大きさを示しています。
また、広告表現に関する苦情は2,229件で、鼻の角栓、歯の汚れ、目の下のたるみを表示した『化粧品』『医薬部外品』(それぞれ224件、135件)の広告に対し、生理的不快感を訴える苦情が多数寄せられて、前年同期比138.2%となりました。
また、広告事業大手ヤフーは、Yahoo! JAPAN 広告掲載基準で、「コンプレックス部分を露骨に表現したもの」の広告出稿を禁止しました。
同社の広告掲載基準には、“目や口など、人体の局部を強調したものや、コンプレックス部分を露骨に表現した画像、映像などは、ユーザーに不快感、嫌悪感を与える可能性があるためできません”という禁止表現が示されています。
「なりたい自分を目指す」という人がいる一方で、企業がその人々の“願望”を商品や広告等で後押しすることは悪いことではありません。
しかし、ネガティブな感情に訴求する方法は、差別の助長につながり、価値観の偏重やユーザーの選択肢を狭めることにもなってしまいます。
理想の外見ばかりを強調することで、そうではない人たちの自尊心を低下させることにもなり得るため注意が必要です。
倫理的にも様々な課題をはらんでいる『コンプレックス広告』。
最近の視聴者はコンプライアンスを重視する傾向もあり、自社のブランディングという意味では、よく考えてから採用すべきであるといえます。
コンプレックス広告と捉えられかねない表現には、重々気をつけていきましょう。
※本記事の記載内容は、2021年12月現在の法令・情報等に基づいています。