『いじめ・嫌がらせ』にまつわる労働紛争と企業に求められる対応

コラム

同僚や上司などによる職場でのいじめや嫌がらせが増え続けています。
2022年7月1日に発表された『令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況』では、民事上の個別労働紛争における相談件数のトップが『いじめ・嫌がらせ』でした。
特に、個別労働紛争の相談件数は、コンプライアンス意識の向上もあってか、過去10年間で飛躍的に増加しました。
いじめや嫌がらせの被害に遭った従業員は、事業主に現状を訴え、対応を求めますが、改善されない場合は、労働紛争に発展する可能性もあります。
今回は、企業側が行うべき対応について説明します。

職場での『いじめ・嫌がらせ』は増加傾向

職場におけるいじめや嫌がらせは年々増加しており、社会問題化しつつあります。
コロナ禍でリモートワークが普及しましたが、まだまだ事業所に出社している従業員も少なくはなく、パワーハラスメントなどの被害もよく聞かれます。
職場は、さまざまな立場や年齢の人がともに仕事をする場であり、価値観や考え方、性格の違いなどによって、すれ違いが起きやすく、いじめや嫌がらせにつながりやすい傾向があります。
いくら仕事であったとしても、上司や同僚が適正な範囲を超えて肉体的、精神的な苦痛を与えた場合、いじめ・嫌がらせに該当します。

個々のいじめ・嫌がらせ行為は表面化しづらく、企業にとっては実態把握が難しいのが実情です。
しかし、それらを放置することによるリスクは計り知れません。
たとえば、いじめを受けている従業員がいるにもかかわらず、会社は特に対策を講じていない場合、『使用者責任』を問われ、従業員から損害賠償請求を受ける『労働紛争』へと発展するケースもあります。
いじめによって職場環境が悪化し、優秀な人材の流出や職場全体の生産性が低下するなどの可能性もあります。

そのため、懲戒規定の制定やいじめ根絶の明言化、相談窓口の設置など、企業にはいじめや嫌がらせを未然に防ぐ取り組みが求められています
いじめや嫌がらせが起きてしまったら、問題解決に向けて、迅速に対応することが大切です。

助言・指導やあっせんによる解決のプロセス

『個別労働関係紛争解決制度』は、いじめや嫌がらせなどを含む、労働紛争を円滑に解決するための制度です。
この制度は、個別労働関係紛争解決促進法に基づいて2001年に施行されたもので、各都道府県の労働局が管轄しています。

この制度では、『労働局長による助言・指導』や『紛争調整委員会によるあっせん』などの具体的な解決策が定められています。
当事者からの申請を受け、労働問題の専門家が第三者として間に入り、助言や指導、または解決策を提示して、解決を図ります。

既述の調査によると、2021年度の『助言・指導』の申出件数は全体で8,484件でしたが、そのなかで、いじめ・嫌がらせの申出件数は1,689件とトップでした。
また、『あっせん』の申出件数も、全体の3,760件のうち、『いじめ・嫌がらせ』が1,172件と抜きん出ています。
それだけ、いじめや嫌がらせの解決手段として、助言・指導やあっせんを活用する当事者が多いということでしょう。

助言・指導やあっせんは裁判ではなく、あくまで第三者が双方の調整を行ったり、話し合いを促したりするものです。
したがって、従業員が助言・指導やあっせんを申し立てた場合、企業は助言・指導やあっせんに参加しないこともできます。
また、助言・指導は、強制力を伴わないので、これに従わないこともできます。
あっせんについても、あくまで紛争調整委員会による解決策の提示なので、企業が従う義務はありませんし、罰則などもありません。

助言・指導、あっせんで解決に至らなかった場合は、『労働審判』や『訴訟』へと進むことになります。
労働審判や訴訟では、企業の使用者責任や安全配慮義務違反が厳しく追求される可能性もあります。
また、労働審判や訴訟には相応の手間とコストもかかります。

したがって、従業員から助言・指導やあっせんの申し立てが行われた場合は拒否をせず、まず参加することをおすすめします
助言・指導やあっせんであれば、穏便に済む可能性は高く、お互いの納得感を持って、解決を図ることができます。

2021年のあっせんによる処理件数は3,819件でしたが、そのうち3分の1にあたる1,263件は、合意が成立しています。
助言・指導やあっせんは、被害者である従業員の不満を理解する場でもあります。

今日、企業には、職場でのいじめや嫌がらせを防止する、実効性の高い取り組みが求められているといえます。
しかし、もし労働紛争に発展しそうな訴えがあったとしたら、従業員の言葉に真摯に耳を傾け、労使で協力しながら解決法を探していくことが大切です。