オンラインで行われる『リモート税務調査』の流れと手順

コラム

新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に全国の法人から、Web会議システムなどのリモートツールを使用した税務調査の実施を求める声が上がりました。
リモートによる税務調査は、人同士の接触機会を減らせるうえに、作業の効率化を図れるというメリットがあります。
上記をふまえて、2022年10月から各国税局の機器や通信環境を利用したリモートによる税務調査が試行的にスタートしました。
現在は対象が大規模法人に限られていますが、今後は中小法人にも範囲が拡大される可能性があります。
リモート調査の流れや手順などを把握しておきましょう。

中小法人もリモート調査の対象となるか

2021年6月に、国税庁は税務行政におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を推し進めるために、これまでの『税務行政の将来像』を改定した『税務行政の将来像2.0』を公表しました。
そのなかの将来的な構想として提示されたのが、『Web会議システムを活用したリモートでの税務調査』です。
国税庁が目標とする「あらゆる税務手続が税務署に行かずにできる社会」を実現するためには、リモート調査の導入が欠かせません。

コロナ禍によって法人側から要請の声が多かったこともあり、2022年10月からは、特別国税調査官所掌法人を対象に、国税局によるリモート調査が必要に応じて実施されています。
特別国税調査官所掌法人とは、資本金がおおよそ40億円以上で、国税局によって調査の必要があると認定された大規模法人のことです。

そして、2023年7月からは対象の範囲が拡大され、特別国税調査官所掌法人以外の大規模法人に対しても、リモート調査がスタートしました。
対象となるのは、原則として資本金が1億円以上の調査課所管法人です。
一口に税務調査といっても、国税局が調査するのは1億円以上の法人で、その下部組織である税務署がそれ以外の法人を調査します。

現在実施されているリモート調査は、全国に12カ所ある国税局(沖縄は沖縄事務所)によって行われており、対象は大規模法人に限られています。
しかし、今後は税務署が管轄する中小法人にも広がる可能性が十分にあります。

リモート調査はどうやって実施される?

本来は時間も手間もかかる税務調査ですが、リモート調査は調査官が出向かなくても画面越しに調査を実施でき、効率化を図れるのが大きなメリットです。
ただし、機器の用意やソフトの導入など、相応の準備が必要になります。

まず、事前準備として、対象の法人は必要事項を記入した『リモートツールの利用に関する同意書』をe-Taxで国税庁に提出します。
このとき、税務調査に使用するメールアドレスが必要になるので、用意しておきましょう。

リモート調査で使用される国税局の機器や通信環境は、『政府機関等のサイバーセキュリティ対策のための統一基準群』を満たしているうえに、独自の対策を施しているものになります。
機密性の高い情報をやり取りするため、リモート調査を受ける法人側も相応のセキュリティ対策を講じている必要があり、機器や通信環境は万全にしておかなければいけません。
それでも、脆弱性等に起因したウイルス感染などのリスクはあります。
リモート調査によってウイルス感染などの被害をこうむっても、国税局が責任を負うことはないので注意してください。

また、帳簿などのデータの受け渡しは、原則としてオンラインストレージサービスの『Prime Drive』を使用して行われます。
たとえデータのサイズが軽くても、メールに添付して送ってはいけません。
セキュリティの観点から、データにはパスワードをかけ、国税局の担当者がダウンロードして保存したら、該当データをオンラインストレージから消去する必要があります。

国税局の調査担当者と話すリモート調査は、原則としてビデオ会議ソフトの『Webex』を使用します。
調査担当者はWebexを介して法人の経理担当者にヒアリングを行います。
税理士の立ち会いも認められているため、情報を適時共有しながら進めていきましょう。

国税庁は『税務行政DX~構想の実現に向けた工程表~』において、2023年以降に「リモート調査の実施を拡大予定」と記しています。
これまでは実地調査が原則だった税務調査はコロナ禍の影響もあり、2020年には過去最低の税務調査件数を記録しました。
今後は徐々に調査件数が戻ると同時に、リモート調査の件数が増えていくと見られています。

中小企業の事業主も、リモート調査に関する今後の動きを注視しておきましょう。